ダメ人間のためのパン
この世にはダメ人間パンというものがあって、その名の通りダメ人間が食べるパンです。
私の知る限り/現存している限りだと、この記事での言及が一番古いと思います。
『ダメ人間パン』命名の方の記事は、削除されてしまったようです。
もしあなたが、隣人がこのパンを食している光景をよく目にするなら、その隣人との付き合い方を今一度考えてみたほうが健全です。
ダメ人間パンは、ダメ人間のリトマス紙だから。
私の周りのダメ人間はみんなこのパンを好んで食べています。私も。
どうしてダメ人間ばかりがこのパンを好むのか?
この度は私なりに思い当たった理由についてまとめてみます。
- 安い
エグ安い。すごく安い。
特に安いと9本で100円とかね。
ダメ人間はダメ人間なので、常にお金があまりありません。
- 無味
無味ではないんですけど…
ダメ人間はコンビニで迷います。
お昼にミートソースの気分だったり、冷やし中華の気分だったり忙しくて、決断できずに平気で30分くらいコンビニにいます。(私はそう)
そして、自動販売機でお茶かジュースか迷って結局お水のボタンを押すみたく、ダメ人間はこのパンを手に取るのです。
このパンの味はただただほんのり甘く、無味より無味です。
「これにしてよかった」という喜びも、「これにするんじゃなかった」という後悔も産み出しません。
決断の責任を問いただしません。
その何もない温度がダメ人間には心地いいのです。
- 多くて保存がきく
多い。でも残しても大丈夫。
昼に食べきれなくても、封をして保管しておけば他の時間に食べられます。
ダメ人間は食欲がないくせにいつも口寂しい。
こんなところだと思います。
私は高校の頃からダメ人間パンをよく好んで食べていました。
バッククロージャーを小指に指輪のようにはめて、駅から家までの道を、貪るという動詞がふさわしい勢いで食べながら帰るのです。
ダメ人間は極端に人の視線が気にならないので、平気で道を歩きながら飲食ができる。
これも本当。
今日は新しいバイト先の初出勤日でした。
制服のスーツに身を包んで歩いて、あらなんだか私って就活生みたいねと思いつつ出勤すると、そこには私よりもなんぼか就活生然とした、背筋の伸びた女の子が居た。
その子の発する「ありがとうございました~」は堂に入っててかっこいい。
新しい職場でアイデンティティを獲得するべく、意味もなくその子と違うイントネーションでお礼を言うように試みて、声が裏返る私。非常にかっこわるい。
お客さんの波が収まったので、しばしコミュニケーションをとる。
~その子について分かったこと~
・私より1学年下である
・この他にもコンビニのバイトをしている
・宮城からこっちに越してきて1人暮らしである
昼の休憩時間に入る。
彼女は公務員試験のセミナー代を振り込むためにと外へ出て行った。
私も外に出てコンビニへ向かう。
休憩時間は30分しかない。
いつものように選んでいたらご飯にありつけずに終わってしまう。
こんな時はアレよ。あのパンだよ。
ダメ人間パンをむんずと掴み、会計して退店する。
休憩室に戻りパンをバカみたいに食べていると、就業再開5分前になり彼女が戻った。
「振込お疲れ様です。ごはんはちゃんと食べられましたか?」と問うと、彼女は「社員食堂に行ってきましたよ!」と答える。
え!?!?食堂!?!?!?!?
私がコンビニ行って、コンビニから帰って、パンを無心で5本貪るのが精いっぱいだった30分の間に、あなたはコンビニで公務員試験のセミナー代を振り込んで、社員食堂!?!?!?!?
彼女が退室したのを見計らい、袋に入ったパンをひしと抱きしめる。
なんだかあったかい気がする。
このフィット感はまるであれですね、赤ちゃんを抱いてるみたい。
嘘。
私は親戚が集まる場が苦手だったので行かなかったし、赤ちゃんを抱いたことなんてほとんどない。
なので「みたい」なんて懐かしく思い出せるほどは抱いていないはずだ。
ただ、赤ちゃんがこんなに軽い生き物ではないことだけは知っている。
だから全部嘘だ。
私が思い出したのはたぶんメルちゃんのことだよ…
そういったことをぐるぐる考えるとやるせなくなって、今度は袋のクロージャーでくびれた部分を片手で持つ体制に変えた。
一転して大人の生首を持っているような気持ちになった。
こっちのほうが圧倒的にしっくりくる。
ダメ人間パンに体温を求めてはいけない。
ダメ人間パンは返事をしない。
ダメ人間パンは死んでいる。
ダメ人間パンの返事をしなくて死んでいるところを、ダメ人間は愛している。
簡単なことなのにすっかり忘れてたよ。
私がぜんぶ悪うございました。
ごめんね、許してくれる?
し~~~~ん